.
第1章︵
続・
続︶
.
よくあのとき悲鳴をあげなか
     っ
たわよね︱
、
私
。
.
美也子は目の前をくるるん
     、
くるり、
ぴょ
ん
     、
さぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
︱
っ
と右に行
     っ
たり、
左に行
     っ
たり、
下に行っ
たり
     、
上に行っ
たり、
くるくる
     、
くるくると飛び回
     っ
ているトトプトを眺めながら思
っ
た。
.
本当に楽しそう。
.
いつのまにか、
トトプトの周りには
     、
黄色、
白
     、
紫、
大揚羽︵
おおあげは
     ︶
、
小揚羽︵
こあげは
     ︶
、
たくさんの蝶
     々
が集まり、
いっ
しょ
にふわふわと飛び交っ
ている。
.
さすが、
愛の妖精よね
     
     
     ぇ
。
.
美也子は小首をかしげた
     。
愛と幸せの妖精・
・
・
あんまりそうは見えないけど
。
.
くすっ
と笑い、
両手でカバンを持
     っ
たまま、
ち
     ょ
こん、
と肩をすくめた
。
.
トトプトは美也子の目の前の空中で
     、
ふわっ
と動きを止めた。
.
彼女の方へと向き直り
     、
﹁
あれ?
.
なに?
.
美也子ち
ゃ
ん?
﹂
﹁
ん︱
、
なんかねぇ
﹂
.
美也子は笑っ
た。
﹁
なんか、
ちょ
っ
とだまされち
     ゃ
っ
たかな︱
っ
て﹂
﹁
えっ
、
えっ
﹂
.
トトプトは、
ちょ
っ
と
     、
おろおろ。
﹁
えっ
、
誰に
     
     
     
     
     ?
﹂
﹁
ん︱
、
トトプトに﹂
﹁
えっ
、
えっ
?
﹂
.
トトプトはますます、
おろおろ
     、
おろおろ。
﹁
えっ
、
な、
なんで?
﹂
﹁
え︱
、
だっ
て﹂
.
美也子は、
おろおろ、
おろおろとするトトプ
     トがなんだかおかしく
     て
     、
かわいくて、
ちょ
っ
と意地悪をしてみたくな
っ
た。
﹁
だっ
て︱
、
あのとき、
愛をお届けにきました
     、
なんて
     、
突然、
言うしぃ
﹂
﹁
えっ
、
で、
で、
で、
でも
﹂
.
トトプトは体を起こした
     。
ぷにぷにお手々
を
     、
あわてて、
ぱたぱたと上下に振りながら
     
     、
﹁
で、
で、
で、
でも、
でも
     、
あのとき、
美也子ち
     ゃ
ん、
愛が欲しいっ
て﹂
﹁
そりゃ
あ、
言っ
たけどね
     
     
     
     ﹂
.
美也子はにっ
と笑っ
た
     。
﹁
でもな︱
、
そんなに本気で言
     っ
たわけでも
・
・
・
﹂
﹁
そ、
そ、
そ、
そんなことないよ
     
     
     ﹂
.
トトプトはさらにお手
     々
を上下に、
ぱぱぱ、
ぱたぱた
。
﹁
ぼ、
ぼくね、
ちょ
うど美也子ち
     ゃ
んのおうちの上を通り過ぎると
     きにね
     、
ちょ
うどその声を聞いて
     、
あ、
この人だ
、
っ
て思っ
たの。
.
こ、
言葉だけじゃ
ないよ
     、
美也子ちゃ
んの中にあるなにかを感じ
     て
     ・
・
・
美也子ちゃ
んの心の中に眠
     っ
ている、
きらきら
     、
きらきらとしたなにか
・
・
・
.
あのね、
愛と幸せの宝石を感じて
     ・
・
・
それが見えたの
     ・
・
・
それでね
     、
あ、
探してたのは
     、
この人だっ
て、
思
っ
たんだよ﹂
.
美也子はくすっ
と笑っ
た。
﹁
うそばっ
かり﹂
﹁
ほ、
ほ、
ほ、
ほんとだよ
     
     ﹂
﹁
ほんと?
﹂
﹁
そうだよ、
ほんとだよ
     
     
     
     
     
     ﹂
﹁
ふ︱
ん﹂
.
美也子は首を左にかたむけた
。
.
でも、
まあ、
悪い気はしない
     。
ほんとうにあのとき
     、
あの夜の驚きとい
っ
たら・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・

﹁
あの、
ぼ、
ぼく、
愛の妖精です
。
.
まじかるランドから来ました
     
     。
.
愛と幸せの妖精ぷりんて
     ぃ
ん、
です。
名前は
     、
トトプトといいます
﹂
.
その﹃
なにか﹄
︱
︱
自称
     、
愛の妖精ぷりんて
     ぃ
ん、
トトプトは勉強机の上
     、
黄色い便箋の上で
     、
ぺこり、
と頭をさげた
。
.
ちょ
こんと小さな両手
     ?
を体の前で合わせて
     、
とっ
ても丁寧なごあいさつ
。
.
でも・
・
・
でも、
美也子は
     、
ただ、
ただ、
ぼうぜんとするばかり
     で
     、
しばらくのあいだ・
・
・
.
えっ
?
.
ぽかんと口を開けたまま
     、
その小さな、
つやつや
     、
ぷよぷよの妖精をぼうぜんと見つめ
     ていた
。
.
妖精は顔が、
つるっ
、
ぷよん
     、
としていて、
下の辺りが
     、
ふんわり、
むに
     ゅ
、
ぽこん、
と出っ
ぱっ
て、
丸くなっ
ている
。
.
そこについた、
ちょ
こんとしたお口
     
     
     。
.
小さなお目々
。
.
体も同じく、
つるっ
、
ぷよん
     、
としていて、
ち
     ょ
うど背中の辺りが、
や
     っ
ぱり大きくこぶのように
     、
ぽよよん、
と盛り上が
っ
ていた。
.
そして、
短く、
小さな
     、
先の丸まっ
た手足。
ぷに
ゅ
ぷにゅ
の手足。
.
なんだか、
ゼリ︱
でつく
     っ
たお人形みたいだ
     
     
     
     
     っ
た。
.
指でさわると、
ぽにょ
ぽにょ
、
とっ
ても気持ちよさそう
。
.
ぷにぷにの、
小さな、
明るいピンクのゼリ
     ︱
のような
     、
お菓子のような
、
妖精︱
︱
.
しばらくして、
美也子はは
     っ
として我に返ると
     、
遅ればせながら、
思わず
     、
きゃ
ぁ
っ
、
という悲鳴がのど元まで
     出かか
っ
た。
.
見たこともない妖精が机の上で当たり前の
     ようにし
     ゃ
べっ
ている・
・
・
.
でも・
・
・
.
でも、
おずおず、
一生懸命
     、
頭をさげて、
ごあいさつをしている
     ゼリ
     ︱
のような小さな妖精の
     ﹃
後頭部﹄
を見ていると
     、
なんだか声を上げたら悪いような
     気がした
。
.
不思議と気持ちが徐々
に落ち着いてくるのを感じた
。
.
もしかすると、
もうこのときには
     、
不思議な
     、
ぷりんてぃ
ん、
の魔法にかか
     っ
ていたのかも知れない
。
﹁
あ、
あの・
・
・
﹂
とピンク色の妖精は顔を
     あげ
     、
不安そうに言っ
た
     
     
     。
.
ぷにぷに、
つやつや、
のお顔
。
.
うん・
・
・
.
美也子はつぶやいた。
.
す︱
っ
と気持ちが落ち着いてくると
     、
なんだか目の前の出来事
     、
すべてを受け入れるこ
     とができるような気が
     した
。
.
妖精・
・
・
.
愛の妖精・
・
・
.
んっ
、
と息を飲み込み
     、
椅子に座りなおした
     
     
     。
.
とにかく話を聞いてみよう
。
.
ちょ
こん、
と顔を上げた妖精を見つめ
     
     、
﹁
と・
・
・
トトプト?
.
ぷりんてぃ
ん?
.
トトプト
     、
っ
ていうのが・
・
・
き、
きみの名前なの
?
﹂
.
小さな妖精は、
こくり
     、
とうなずいた。
ようやく少し安心したの
     かも知れない
     、
その顔に
     、
にこっ
とした笑顔が浮かんだ
。
﹁
うん・
・
・
うん、
そう
     。
こんにちは。
ぼく・
・
・
ぼく、
トトプト。
トトプトが名前
     。
それでね
     ・
・
・
あの、
はじめまして
     。
ぼく、
愛の妖精です
     。
愛と幸せの妖精ぷりんて
ぃ
ん﹂
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
とまっ
て
     
     
     
     ﹂
.
美也子は片方の手をかざし
     、
反対の手の指先を額に当てた
。
.
少しだけ、
頭の中をゆ
っ
くりと整理した。
.
トトプト・
・
・
トトプトが名前
     。
それで、
この子は愛の妖精
     ・
・
・
妖精っ
て・
・
・
やっ
ぱりあの妖精よね
     ・
・
・
うん、
そうよね。
愛と
     ・
・
・
愛と幸せの妖精ぷりんて
ぃ
ん・
・
・
.
よし、
と美也子は心の中でつぶやいた
     。
うん
、
よし・
・
・
.
美也子は静かに息をつき
     、
もう少しだけ気持ちを落ち着けた
     
     
     
     。
.
どきどき、
どきどき、
と心臓が高鳴
っ
ている。
.
妖精・
・
・
.
愛の妖精、
愛と幸せの妖精
     、
という言葉が頭の中に繰り返し響き
     渡る
。
.
どきどき、
どきどき、
とする
。
.
トトプトはもうすっ
かり安心した様子で
     、
にこにこ
     、
にこにこと笑
     っ
ている。
ぷにぷに、
つやつや
、
のお顔で。
.
わっ
、
かわいい・
・
・
あっ
・
・
・
.
美也子は、
こほん、
と咳払いをした
。
.
あっ
、
落ち着かなきゃ
・
・
・
.
両方の手の指先を机の端についた
。
.
その愛の妖精さんが・
・
・
妖精さんがいっ
たい
・
・
・
.
すっ
と、
ちょ
っ
とだけ身を乗り出し
     、
トトプトを見つめた
     
     
     
     。
﹁
それで・
・
・
あの・
・
・
その愛の妖精さんが
     ・
・
・
妖精さんが、
私になにかご用
?
﹂
﹁
あのね﹂
.
美也子がたずねると、
トトプトはふいにまじ
     めな顔つきにな
     
     っ
た。
﹁
う、
うん﹂
.
トトプトは、
ぐっ
と息を飲み込み
     、
小さなお手
     々
をぎゅ
っ
と内側に丸め
     
     
     
     、
﹁
あのね、
いま、
世界は危機にひんしている
     の
﹂
.
・
・
・
.
・
・
・
・
・
.
?
?
?
﹁
はっ
?
﹂
.
美也子はぼうぜんとトトプトを見つめた
     
     。
﹁
えっ
?
﹂
﹁
あのね、
世界は・
・
・
﹂
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
とまっ
て
!
﹂
.
美也子はふたたびトトプトを手で制し
     、
反対の手の指先を額に当
     てた
。
.
ふたたび頭が混乱していた
     。
あまりに意外な
     、
予想もしていなかっ
た答えに、
頭がふたたび
     、
ぐるぐる、
ぐるぐると混乱する
。
.
はっ
?
.
世界?
.
世界が
     ・
・
・
危機にひんしている
?
.
えっ
?
.
世界?
.
世界っ
て・
・
・
えっ
?
.
なに?
.
世界っ
て?
.
えっ
?
.
えっ
?
﹁
あのね、
世界は・
・
・
﹂
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
と﹂
.
美也子は、
ごくん、
とつばを飲み込んだ
     
     。
﹁
世界っ
て・
・
・
あの、
世界
っ
て、
あの・
・
・
﹂
﹁
世界はね、
いま危機にひんしてるの
﹂
﹁
あ、
そ、
そうね﹂
.
美也子は笑っ
た。
﹁
はは、
そうよね、
いろいろと
     、
いろいろと大変らしいものね
     。
はは
     
     
     
     ﹂
﹁
もう時間がないの﹂
﹁
は、
はは﹂
﹁
まじめに聞いて!
﹂
﹁
は、
はいっ
﹂
.
美也子はしゃ
きん、
と背筋を伸ばした
。
.
トトプトはそれまでとは打
     っ
て変わっ
た、
き
     っ
とした眼差し︵
とい
     っ
ても、
つぶらな小さなお目
     々
を一生懸命、
き
     っ
としただけ︶
で、
美也子を見つめた
。
.
美也子は、
ごくん、
とつばを飲み込んだ
     
     
     
     
     。
.
トトプトは話をはじめた
。
.
・
・
・
・
・
・
.
トトプトの話によると
     、
この世界にはこことは別の
     、
ぷりんてぃ
んたちの世界
     、
ぷりんて
     ぃ
んたちの国がたくさんあ
     っ
て、
そのうちの一つが
     、
トトプトのふるさと
     、
まじかるランド
     、
だということだっ
た。
︵
ちなみに、
ぷりんてぃ
んたちの世界は、
この世界をそ
     っ
と包み込むような形で
     、
空のかなたに存在しているら
     しい
     。
でも、
人間はそのことに気づいていな
     いだけ
、
とのこと。
︶
.
ぷりんてぃ
んは世界のはじまりの頃から
     、
この世界にいて
     、
人々
の心と心がそ
     っ
とふれ合
っ
たとき・
・
・
.
人々
と動物、
動物と動物たち
     、
植物と人々
のふれ合い
     、
木々
のはざま
     、
花々
の中、
そうしたものの中から生ま
     れてくる愛のきらめき
     ・
・
・
.
そのきらめきの中から生まれてくるもの
     、
それが
     、
ぷりんてぃ
ん、
なのだという
。
.
心のきらめきそのもの
     、
愛のきらめきそのもの
     、
それが、
ぷりんて
ぃ
ん、
なのだという。
.
だから、
ぷりんてぃ
んは愛の妖精だし
     、
愛と幸せを人
     々
のもとへと運んでくることので
     きる妖精
。
.
ふだんは目には見えないけれど
     、
この世界に様
     々
なきらめきが満ちているように
     、
ぷりんて
     ぃ
ん、
はこの世界のいろいろな場所にい
     っ
ぱい満ちていて、
.
人々
を、
動物たちを、
植物を
     、
この世界にある
     、
ありとあらゆるものをいつも
     、
そっ
と見守
っ
ている、
とのこと。
.
愛のきらめきが、
.
ぷりんてぃ
ん。
.
人々
の心の数だけ、
愛の数だけ
     、
ぷりんてぃ
んはこの世界に存在している
     。
ずぅ
っ
と、
ず
     ぅ
っ
と、
むかしから、
ず
ぅ
ぅ
ぅ
っ
と。
.
ずぅ
ぅ
ぅ
っ
とむかしから
     、
いままで、
ずぅ
ぅ
ぅ
っ
と。
﹁
でも・
・
・
﹂
とトトプトは目を伏せて
     、
言っ
た。
.
美也子はその姿に知らず
     、
きゅ
ん、
と胸が締め付けられるような
     気がした
。
.
トトプトは本当にしょ
んぼりとしている。
.
美也子は、
ぎゅ
っ
と手をにぎり
     、
ぐっ
と息を飲み込んでいた
。
.
でも、
この何十年かのあいだに
     、
急速にこの世界から
     、
心のきらめきが
     、
愛のきらめきが失われてい
     っ
ているのだという
。
.
虚無とカオス︵
混沌︶
が急速に人
     々
の心の中に広が
っ
ている。
.
この世界に満ちている様
     々
なきらめきの中から生まれてくるのが
     、
ぷりんて
ぃ
ん。
.
だから、
ぷりんてぃ
ん
     、
もどんどんと数が減
     っ
ていて、
このままだと世界から
     、
ぷりんて
     ぃ
んがいなくなっ
てしまうかも知れない
。
.
もし本当にぷりんてぃ
んがすべていなくなっ
てしまっ
たなら、
世界から
     、
人々
の心の中から
     、
ありとあらゆるものの中から
     、
きらめきが失われて
     、
人々
の心の中は永遠に闇に閉
     ざされてしまう
。
.
そこに残るのは、
.
虚無とカオス︵
混沌︶
.
ねたみ、
憎しみ、
怒り
     、
そのほかあらゆる闇が心をおおい
     、
人々
はお互いに思いや
     っ
たり
     、
慈しんだり、
愛し合
     っ
たりする気持ちを忘れ
     、
すべて自分の欲望のままに
     、
お互いを傷つけあうようにな
     っ
てしまう
。
.
本当は心の中に誰もが持
     っ
ている愛の宝石が闇につつまれて
。
.
本当は誰もが、
すてきなきらめきをも
     っ
たエンジ
ェ
ルなのに。
.
その先にあるのは、
.
破滅。
.
滅亡。
.
世界はわずかなあいだに滅亡への坂道を転
     がり落ちてい
     っ
てしまう
。
.
特にこの数年は、
ますますものすごい勢い
     で
     、
世界から、
きらめきが失われてい
     っ
ている
     
     
     。
.
まるで見えない強い力が働いているかのよ
     うに
。
.
だから・
・
・
﹁
だからね、
だからぼくたち
     、
ぷりんてぃ
んの長老はね
     、
まじかるランドの中からぼくた
     ち子供のぷりんて
     ぃ
んを選んで
     、
地上へと派遣したの
。
.
ぷりんてぃ
んの中でも
     、
子供のぷりんてぃ
んは特に大きなきらめ
     きを持
     っ
ているから。
それでね
・
・
・
﹂
.
トトプトは美也子を見上げた
     
     。
.
彼女は思わず、
ドキッ
、
とした。
.
どきどき、
どきどき、
とする
。
.
やだ、
私っ
たら・
・
・
.
トトプトは小さなつぶらなお目
     々
で美也子を見つめる
。
﹁
それでね・
・
・
それで
     
     
     、
長老は言っ
たの。
.
もうあまり時間は残されていない
     。
でも、
まだ間にあう
。
.
だから、
人々
の中から特に大きなきらめき
     を持
     っ
た・
・
・
愛と幸せの宝石を持
     っ
た人を見つけて
     ・
・
・
本当の心のエンジ
     ェ
ルを見つけて
     、
ぼくたちの力を分け与えてあげて
っ
て。
.
そのエンジェ
ルの子たちを助けて
     、
闇に曇っ
た人々
の心を・
・
・
人
     々
のよごれた心をきれいにしてあげて
っ
て。
.
誰よりも強いきらめきを持
     っ
たエンジェ
ルの子たちと協力して
     、
少しずつ
     、
少しずつ、
この世界にきらめきを
     取り戻してきて
     っ
て。
まだ間にあうから
。
.
あのね、
だからね・
・
・
だから、
ぼく、
ここに来たの
﹂
.
美也子は、
ぽかん、
としてトトプトを見つ
     めた
     
     
     。
.
えっ
、
ちょ
っ
とまっ
て
、
それっ
て・
・
・
.
ごくっ
とつばを飲み込む
。
﹁
あ、
あの、
それっ
て・
・
・
私が・
・
・
﹂
﹁
うん﹂
.
トトプトは笑っ
た。
﹁
うん、
そうだよ﹂
﹁
ちょ
、
ちょ
、
ちょ
、
ち
ょ
っ
とまっ
て﹂
.
美也子は椅子の背もたれに体をあずけ
     、
ずず
     っ
と少しだけ後ずさっ
た。
﹁
ちょ
っ
とまっ
て、
私、
そんなんじ
ゃ
・
・
・
﹂
﹁
ううん﹂
.
トトプトは、
ふるふる
     、
ふるふる、
と顔を振
     っ
た。
﹁
そんなことない
     。
ぼくには分かるんだ
。
.
ぼくには感じる。
君は
     ・
・
・
君は、
他の誰よりも大きなきらめき
     を心に秘めている
     。
愛と幸せの宝石を持
     っ
ている
     。
自分ではまだ気づいていないかも知れ
     ないけれど
﹂
﹁
あ、
あの・
・
・
﹂
﹁
ねっ
﹂
.
トトプトはふわっ
と机の上から浮かび上が
     っ
た。
.
ゆっ
くりと、
でも、
す
     ︱
︱
︱
︱
︱
っ
と美也子の前まで飛んでくる
     
     。
﹁
ねっ
﹂
﹁
えっ
?
﹂
.
ふいに美也子とトトプトのあいだの空中に
     、
キラキラ
     、
キラキラとしたステ
     ィ
ッ
クが浮かび上が
っ
た。
.
映像?
.
・
・
・
ではなかっ
た。
.
それは確かにそこに、
空中に浮かんでいる
     。
それは先に二つのハ
     ︱
トが水平に交わ
     っ
ていて
     
     
     
     ・
・
・
.
キラキラ、
キラキラと輝いている
。
﹁
ねっ
、
これを受け取っ
て﹂
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
﹁
だからさぁ
、
ど︱
も、
そこがだまされた気が
     するのよね
︱
﹂
﹁
えっ
?
.
ど、
どうして
     
     
     
     ?
﹂
﹁
だっ
てさぁ
﹂
.
美也子は空き地の中をま
     っ
すぐに続く一本道を歩きながら
     、
両手で持
     っ
た通学カバンをち
     ょ
っ
とだけ、
ちょ
こん
、
と振り上げた。
.
中に入っ
た筆箱が、
ガチ
     ャ
ン、
と小さな音をたてる
     。
﹁
だっ
てさぁ
、
あのときトトプト、
﹃
ねっ
、
これを受け取っ
て﹄
っ
ていうだけで、
あのステ
     ィ
ッ
クが何なのか
     っ
てこと、
ぜんぜん説明しなか
     っ
たじゃ
ない
﹂
.
美也子はちらっ
とトトプトへと目を向けた
     
     
     。
.
トトプトは彼女の顔のすぐわきを
     、
ふわふわ
     、
ふわふわ、
と飛んでいる
     。
その周りにはたくさんの蝶
々
。
﹁
で、
で、
でも・
・
・
﹂
.
トトプトは、
とっ
ても困り顔
。
.
美也子はくすっ
と笑っ
た。
﹁
ま、
いいけどね﹂
.
・
・
・
.
美也子は空中に浮かんだステ
     ィ
ッ
クを本当に自然に
     、
知らず知らずのうちに手にと
     っ
ていた
。
.
ずっ
とむかしから自分のものであ
     っ
たかのように
     、
ずっ
とむかしから知
     っ
ていたものであ
     っ
たかのように、
本当に自然に
     、
気がついたときには
     、
そっ
と両方の手にと
っ
ていた。
.
その瞬間、
.
あっ
・
・
・
.
ふいに美也子の体はキラキラとした明るい
     光につつまれていた
     。
体の奥の奥
     、
ずっ
と心の奥底からあたたかな
     ものが込み上げてくる
。
.
わっ
、
.
なに・
・
・
.
美也子はすっ
と目を閉じた
     。
これまで感じたことのない
     、
きらきら
     、
きらきらとした光を感じる
。
.
自分の中にねむっ
ていた光
     
     ︱
︱
.
きらめき、
.
愛と幸せの宝石。
.
光はすぐに消えた。
すべての光が美也子の
     体の中に吸い込まれて
     いくかのように
     
     
     
     。
.
そっ
と目を開く。
.
手にはスティ
ッ
クが握られている
。
.
そのスティ
ッ
ク︱
︱
.
トトプトの言葉を借りるなら
     
     、
.
愛と幸せの﹃
まじかるステ
     
     
     ィ
ッ
ク﹄
には、
.
様々
な不思議な力が宿
っ
ていた。
︵
そのすべての力を彼女はまだ知らない
     。
トトプトもすべては分か
     らない
     、
と言っ
ていた。
ステ
     ィ
ッ
クのすべてを知
     っ
ているのは、
ぷりんて
     ぃ
んの世界をつかさどる女王さま
     ?
だけ、
らしい
。
︶
.
特に大きな、
重要な力は
     、
トトプトから教わ
     っ
たある﹃
ことだま﹄
を唱えながらステ
     ィ
ッ
クを振ると
     、
スティ
ッ
クに
     ﹃
あること﹄
が起こり
     、
そこからあたたかな
     、
まぶしい光がはなたれるというもの
。
.
誰にでも出来ることではない
     、
という。
ステ
     ィ
ッ
クに選ばれた特別なエンジ
     ェ
ルだけができること
。
.
はなたれた光は美也子をそ
     っ
とつつみ込み、
彼女に不思議な力を与
     える
     
     
     
     。
.
愛のきらめきの力、
.
ぷりんてぃ
んの力、
.
なにより、
彼女自身が本来も
     
     っ
ている力、
.
愛と幸せの宝石の輝き
。
.
スティ
ッ
クの光は彼女の姿をも変えた
。
.
はじめての晩、
トトプトに言われるままに
     ステ
     ィ
ッ
クを振っ
た後、
美也子はその自らの変
     化に驚き
     、
とまどいを感じずにはいられなか
     っ
た。
.
ぼうぜんと壁の鏡に映る自らの姿を見つめ
     た
。
.
学校ではあまり目立たない静かな自分
     
     
     。
.
でも、
.
・
・
・
そこには別の自分がいた
     
     
     
     。
.
これが・
・
・
私・
・
・
.
とまどい︱
︱
.
それでも、
体の奥底から湧き出してくる
     、
無限の光の感覚はあた
     たかか
     っ
た。
どこかなつかしいものを感じた
。
.
これが、
.
・
・
・
私?
.
髪の色も金色に変わり
     、
服もピンクを基調とした独特のコスチ
     ュ
︱
ムへと変わっ
ていた。
.
左右それぞれの胸当ての形はハ
︱
ト。
.
そのハ︱
トとハ︱
トが胸の中ほどで接し
     、
やわらかな形をつく
     っ
ている
     
     。
.
それは、
﹃
ぷりんてぃ
ん﹄
を象徴する形だと
、
トトプトは言っ
た。
︵
でも、
正直に言うと、
この胸当てだけは
     、
いまだに美也子は
     、
う︱
ん
     、
ちょ
っ
とどうかな︱
、
と思っ
ている。
︶
.
美也子は鏡を見つめていた
     
     
     
     。
.
はっ
として後ろを振り返ると
     、
そこにはトトプトがふわふわと浮
     かんでいた
。
.
トトプトは、
にっ
こりと笑い
     
     
     
     、
﹁
さっ
、
美也子ちゃ
ん。
行くよ
!
﹂
.
その晩から、
美也子の
     ﹃
まじかるエンジェ
ル
     ﹄
としての活躍がはじま
っ
た。
﹁
わっ
﹂
.
まじかるエンジェ
ルに姿を変えているあい
     だ
     、
美也子はトトプトと同じように宙に浮き
     、
空をかけることができ
     た
。
﹁
わっ
、
すごい、
気持ちいい
     
     
     
     
     ︱
﹂
.
眼下の町並みが小さく
、
小さく見える。
.
様々
な場所で、
﹃
心のよごれたエンジ
     ェ
ルさん
     ﹄
を見つけ、
心をきれいにした
。
.
日本中、
どこにでも、
トトプトの不思議な力
     で
     、
一瞬のうちに、
テレポ
     ︱
ト︵
瞬間移動︶
することができた
。
.
この突然あらわれた不思議な少女の活躍は
     、
翌日からすぐに新聞の
     紙面をかざり
     、
テレビのニ
     ュ
︱
スの話題を独占した
。
.
髪や服装は変わっ
ていても
     、
顔は素顔のまま
。
.
でも、
トトプトがいうには
     、
ぷりんてぃ
んの魔法の力によ
     っ
て、
感覚がずらされ
     、
たとえ美也子をよく知
     っ
ている友達でも
     、
まじかるエンジ
     ェ
ルと美也子が同一人物だとは
     、
ぜっ
たいに分からない、
とのことだ
っ
た。
.
美也子の活躍は、
まじかるエンジ
     ェ
ルの活躍は
     、
毎晩のように続いた
。
.
でも、
自宅の自室に戻り
     、
﹃
変身﹄
を解き、
もとの姿に戻
     っ
た後、
美也子は決ま
     っ
て、
ずど
     ︱
ん、
とした自己嫌悪に陥
っ
た。
.
う︱
︱
︱
︱
︱
︱
ぅ
ぅ
。
.
頭に浮かぶのは、
まじかるエンジ
     ェ
ルに寄せられる人
々
の声援。
﹁
まじかるエンジェ
ルぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
!
﹂
﹁
がんばれ︱
、
俺たちがついてるぞ
     
     
     ︱
﹂
﹁
いいぞ︱
﹂
﹁
いけ︱
﹂
.
そして、
歓声!
﹁
おおお、
おおおぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
!
﹂
.
う︱
︱
︱
︱
︱
︱
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
。
.
美也子は自室の壁際のベ
     ッ
ドに腰を下ろし、
顔をま
っ
赤にした。
.
曲げた両腕を、
きゅ
っ
とすぼめる。
.
う︱
︱
︱
︱
︱
、
なんで毎回
     、
私、
変身しているあいだは
     、
あんなこと出来るんだろう
     ・
・
・
。
うぅ
︱
︱
、
は、
はずかしい
     ぃ
ぃ
ぃ
ぃ
ぃ
!
!
!
!
.
おまけに二週間前からは
     、
彼女と同じように
     、
それぞれ、
別のぷりんて
     ぃ
んから力を授けられた二人の少女と
     出会い
     、
いっ
しょ
に行動している
。
︵
実際には、
トトプトが
     、
ぷりんてぃ
ん同士で連絡を取り合い
     、
三人を引き合わせた
     、
のが本当
。
︶
.
いつのまにか、
自分がリ
     
     ︱
ダ︱
。
.
彼女一人の﹃
まじかるエンジ
     ェ
ル﹄
は、
三人の
     ﹃
まじかるエンジェ
ルズ﹄
になっ
た。
.
そんな生活がもう三週間
     
     
     
     
     。
.
・
・
・
﹁
はぁ
﹂
と美也子はため息をついた
。
.
まじかるエンジェ
ルにな
     っ
ているときの自分は自分ではない
     、
と思う
     
     。
.
自分ではない、
別の自分
。
.
美也子は顔をあげ、
両手で持
     っ
た通学カバンをち
     ょ
っ
とだけ、
ちょ
こん、
と体の前で振り上げた
     
     
     。
.
中の筆箱が、
ガチャ
ン
     
     、
と音をたてる。
.
くすっ
と笑っ
た。
.
左手の空き地へと目を向けた
。
.
空き地の中、
青々
としげ
     っ
た草の上、
トトプトがたくさんの
     、
色とりどりの蝶
     々
といっ
し
     ょ
に、
楽しげに飛び回
っ
ている。
.
右に、
左に、
.
上に、
下に、
くるくる
、
くるくる、
と。
.
ま、
仕方ないか・
・
・
.
にこにこ、
きゃ
っ
きゃ
っ
、
と笑っ
ているトトプトを見ていると
     、
そう思う
。
.
人々
にきらめきをふりまく
     、
.
心をきれいにする、
.
愛と、
.
幸せの、
.
・
・
・
まじかるエンジ
ェ
ルズ。
.
でも、
.
それでも、
美也子は青く青く晴れ渡
     っ
た空を見上げ
     、
﹁
はぁ
﹂
とため息をつき
     、
思わず、
こうつぶやかずにはい
     られなか
っ
た。
﹁
うぅ
ぅ
ぅ
、
.
私の﹃
ふつうの﹄
.
女学生ライフぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
﹂







