.
第3
章﹁
お︱
い、
みゃ
︱
こ!
﹂
﹁
美也子お姉さまぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
﹂
.
よく晴れた日曜日の午後
     、
白塗りの壁の二階建ての家の前で
     、
少女二人の声が高らかに
     響く
。
﹁
お︱
い、
みゃ
︱
こぉ
、
来たぞ
     
     
     
     
     ︱
﹂
﹁
お姉さまぁ
、
来たです
ぅ
﹂
.
うぅ
うう︱
︱
︱
︱
︱
︱
。
.
美也子は二階の自室、
勉強机の前の椅子に座
     りながら
     、
その声を聞いていた
。

.
右手の、
家の正面に面した窓は大きく開か
     れている
。
.
風が吹き込み、
薄いピンクの花柄のカ
     ︱
テンが
     
     、
ふわりと揺れた。
.
ふわっ
、
ふわり。
.
続いて響く、
けたたましい呼び声
。
﹁
お︱
い、
みゃ
︱
こ、
いないのか
     
     
     ︱
﹂
﹁
美也子お姉さまぁ
、
来たです
ぅ
﹂
.
うううぅ
ぅ
ぅ
ぅ
うぅ
・
・
・
.
美也子は机に両方の肘をつき
     、
両手で両頬を
     、
むにゅ
、
とかかえた
     。
うううぅ
ぅ
ぅ
︱
︱
、
来た
     、
来た、
来た、
また来た
     、
うぅ
ぅ
ぅ
ぅ
う、
も
ぉ
!
.
二人が訪れるのは、
この一週間で
     、
これで三回目だ
     っ
た。
その度に
     、
読んでいた本を中断させられたり
     、
勉強の予習を中断させられ
     たり
     、
観ていたテレビを中断させられたりし
     ていた
。
.
ちなみに、
いまは明日が期限の数学の宿題
     をしていたところ
     
     
     。
.
もぉ
!
﹁
みゃ
︱
こぉ
﹂
﹁
お姉さまぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
﹂
.
と、
ふいに、
.
ガチャ
リ、
.
・
・
・
と、
階下で扉の開く音
     。
玄関の扉が開く音
。
﹁
あらぁ
、
亜久亜︵
アクア
     ︶
さんに、
茶茶︵
ちゃ
ちゃ
︶
ちゃ
ん、
いら
っ
しゃ
い﹂
.
うぅ
ぅ
︱
︱
、
ママ、
わざわざ表に出ること
     ないわよ
     、
そんな二人、
ほ
     っ
といていいわよ、
う
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
、
もぉ
・
・
・
.
美也子は、
うぅ
ぅ
、
すくり
     、
と椅子から立ち上がると
     、
窓辺へと近づき
     、
さっ
、
ささっ
、
とカ
     ︱
テンのかげに隠れ
     、
そっ
と、
本当にそっ
と、
表を覗きみた。
.
うぅ
ぅ
ぅ
ぅ
・
・
・
.
家の前は広々
とした公園
     
     。
.
あちこちに休憩用のベンチがしつらえられ
     、
木
     々
が植えられ、
滑り台や
     、
ブランコもある。
日曜日の午後にしては
     、
人影はぱらぱらとまば
     らだ
っ
た。
.
その公園と自宅とのあいだ
     、
舗装されたやや幅広のま
     っ
すぐな道︱
︱
住宅街の中の道。
.
そこに、
二人の少女が立
     っ
ていた。
ちょ
うど美也子の家の
     、
腰ぐらいの高さの低い白塗
     りの門の前
。
.
美也子にとっ
ては、
二人とも
     、
もうよく見知
っ
ている相手。
.
門から玄関までは庭をはさんで
     、
五、
六メ︱
トルほどの距離がある
。
.
ここからは見えないが
     、
玄関のところには彼女の母親が顔をみせ
     ているのだろう
     、
少女二人は
     、
手を上げ、
にこにこと笑
っ
ている。
﹁
あ︱
、
ども︱
、
また来ました
     
     
     !
﹂
﹁
来たですぅ
、
お母さま
﹂
.
すぐに返っ
てくる声。
﹁
いらっ
しゃ
い。
美也ち
     ゃ
んは二階にいるわよ
     
     ﹂
﹁
お姉ちゃ
ん、
二階だよ
﹂
.
最初の声は母親、
後の声は小学校に上が
     っ
たばかりの妹
     、
奈奈のものだ
っ
た。
﹁
あのねぇ
、
奈奈、
これからママとい
     っ
しょ
にお買い物にいくの
     。
あのね
     、
新しいお洋服、
買
     っ
てもらうの。
でもね
     、
お姉ちゃ
んはいかない
     っ
て。
だからね、
あのね
     、
だから、
お姉ち
ゃ
ん二階にいるよ﹂
.
ううぅ
・
・
・
.
美也子は思っ
た。
しま
     っ
た、
こんなことなら
     、
さっ
きママに訊かれたときに
     、
行く、
っ
て言えばよか
っ
た。
.
いまさらもう、
やっ
ぱり行く
     、
なんて言えない
     
     。
.
うぅ
ぅ
ぅ
。
.
すべてはもう後の祭り
。
﹁
へぇ
、
そうなんだ、
奈奈ち
     
     
     
     
     ゃ
んよかっ
たね﹂
﹁
よかっ
たですぅ
。
奈奈ち
     ゃ
ん、
かわいいから
     、
もっ
とかわいくなるです
ぅ
﹂
﹁
えへへ﹂
.
母親と、
母親の腕に両手でし
     っ
かりとしがみついている奈奈の姿
     が見えた
     
     
     。
.
玄関から門の方へと歩いてくる
     。
二人とも外出用のきれいな衣服
     に身をつつんでいる
。
﹁
よかっ
たわ。
ちょ
うどいま
     、
奈奈と出かけるところだ
     っ
たの。
でも
     、
お二人ともご遠慮なくおあがりにな
     っ
て。
美也子
     、
一人で留守番だから
     、
とっ
てもよろこぶわ
﹂
.
よろこばない!
.
宿題、
まだ終わっ
てないのに
ぃ
!
.
美也子は、
かくん、
と首をかたむけた
     。
も︱
、
ま、
しかたないか・
・
・
﹁
うぃ
︱
す﹂
﹁
はいですぅ
﹂
.
母親は門をカチャ
リ、
と開けた
。
.
美也子は、
ちらっ
と庭へと入
     っ
てくる二人の少女へと目を向けた
     
     
     
     
     。
.
やれやれ・
・
・
.
一人の少女は背が高く
     、
まだ春だというのに
     、
薄手のシャ
ツに、
下もカジ
     ュ
アルなショ
︱
トパンツという姿をしていた
。
.
遠く離れた二階からでも
     、
バスケッ
トをして鍛えたという
     、
二の腕や
     、
ふとももが、
きゅ
っ
と引き締まっ
ているのがよく分かる
。
.
美也子より二つ年上、
中学三年生
     
     。
.
名前は、
杉本亜久亜︵
すぎもとアクア︶
。
.
体育会系。
﹁
それじゃ
、
おじゃ
ましま
     
     
     
     
     
     
     
     
     っ
す﹂
.

.
もう一人の少女はどこか幼さの残る顔立ち
     で
     、
淡い赤みがかっ
た色の
     、
ふんわりとしたお嬢様風のワンピ
     ︱
スドレスに身をつつんで
     いた
。
.
美也子の二つ年下、
まだ小学五年生
     
     。
.
小脇にはテディ
ベアのぬいぐるみを大切そ
     うに抱え
     、
にっ
こりと笑
っ
ている。
.
名前は、
如月茶茶︵
きさらぎちゃ
ちゃ
︶
.
お嬢様?
系。

﹁
おじゃ
まするですぅ
﹂
﹁
それじゃ
、
お二人とも
     
     、
ごゆっ
くり﹂
﹁
うぃ
っ
す﹂
﹁
はいですぅ
﹂
.
やれやれ・
・
・
.
母親と奈奈はそのまま門の外へと出て
     、
道を向こうへと歩いてい
     っ
た。
.
二人の少女は玄関の方へと
     
     
     。
.
おそらく、
いま、
この瞬間には他の人
     々
には
     ︱
︱
もちろん、
母親と奈奈にも
     ︱
︱
見えてはいないはずだ
っ
た。
.
でも、
二人の少女、
亜久亜と
     、
茶茶のすぐ脇の空中には
     、
それぞれ水色と黄色の
     、
﹃
ぷりんて
     ぃ
ん﹄
が、
ふわふわ
     、
ふわふわと浮かんでいた
。
.
ふわふわ、
ふわふわ、
と
。
.
二人?
の、
ぷりんてぃ
んたちも、
にこにこ、
にこにこと笑
っ
ている。
﹁
お︱
い、
みゃ
︱
こぉ
﹂
﹁
美也子お姉さまぁ
ぁ
﹂
.
すぐに階下から声が響いてくる
。
﹁
はい、
はい、
はい﹂
.
美也子は窓辺をはなれ
     、
開け放たれたままの
     、
部屋の出口へと向か
     
     
     っ
た。
.
知らず知らずのうちに
、
両腕を組んでいた。
.
むぅ
、
と思う。
.
もぉ
、
とつぶやいていた
。
﹁
まっ
たく、
もぉ
。
いまさらどうでもいいけ
     どね
     、
どうして、
いつのまにか
     、
私の部屋が、
まじかるエンジ
     ェ
ルズの会議室にな
     っ
たのよ、
も
ぉ
﹂
.
☆.
.
.
☆.
.
.
☆﹁
だっ
て、
しかたないじ
     ゃ
ん、
みゃ
︱
こがリ︱
ダ︱
なんだし﹂
.
亜久亜は丸いココナッ
ツ・
チョ
コレ︱
トを親指で
     、
ひょ
ん、
と上に放り投げ
     、
ぱくん、
と口に飲み込み
     、
言っ
た
。
.
ショ
︱
トパンツから下
     、
むき出しの素足。
その引き締ま
     っ
た片方の足をす
     っ
と伸ばし、
片方の膝をたて
     、
絨毯の上に座
っ
ている。
.
反対の手を後ろに突いて
、
体を支えている。
﹁
な、
茶茶﹂
﹁
そうですよぉ
﹂
.
茶茶は首をちょ
こんと傾けて
     、
にこっ
と笑う
     
     。
.
絨毯の上、
亜久亜の斜交い
     ︵
はすかい︶
、
正座の姿勢から少しだ
     け足をくずして座
     っ
ている
。
.
ワンピ︱
スドレスが、
ひだを波打たせ
     、
ふわり
     、
ふわっ
と絨毯の上に広が
     
     
     っ
ている。
.
ビロ︱
ドの海のよう。
﹁
だっ
て、
美弥子お姉さまがリ
     ︱
ダ︱
なんだから
     、
しかたないですよ
ぉ
﹂
﹁
はい、
はい、
はい、
そうですね
     
     
     ﹂
.
美也子は湯気のたっ
た五つのテ
     ィ
︱
カッ
プ︱
︱
大きめのカッ
プが三つ
     、
小さなカッ
プが二つをお盆に載せて
     、
部屋へと入
っ
てきた。
.
わざわざ下の台所から運んできたもの
     
     
     。
.
わざわざ、
わざわざ。
.
亜久亜は体をぐいっ
と後ろにのけぞらせ
     、
顔を上下逆さまにし
     
     、
﹁
ねぇ
︱
、
ねぇ
、
みゃ
︱
こ、
それなに?
﹂
﹁
ホッ
トココア﹂
﹁
おっ
、
いいねぇ
﹂
.
亜久亜は後ろに突いていた手をはなし
     、
上体を起こした
。
.
ぱちん、
ちん、
と指を鳴らす
     。
﹁
俺さ、
ホッ
トココアっ
て好きなんだよな
︱
﹂
﹁
茶茶も好きですぅ
﹂
﹁
はい、
はい、
はい。
もう十分わか
     っ
ておりますわよ
     、
二人とも。
はい
、
はい﹂
.
美也子の部屋、
その中ほど
     、
小さなガラスのテ
     ︱
ブルが置かれている
     
     。
.
二人はその周りに座っ
ている。
.
そして、
テ︱
ブルの上には
・
・
・
﹁
はい、
おまたせ、
どうぞ
     
     ﹂
.
美也子はにっ
こりと笑
     
     
     
     っ
た。
.
小さなカッ
プ二つを先に手にとり
     、
順番にテ
︱
ブルの上に置いた。
﹁
美也子さん、
ありがとうございます
     
     
     ﹂
﹁
あっ
、
お構いなく﹂
.
テ︱
ブルの上に、
ちょ
こん、
とお尻をついて
     、
お行儀よく座っ
ていた二人
     ?
のぷりんてぃ
んが、
ぺこ、
ぺこと頭をさげた
     
     
     。
.
美也子はくすっ
と笑っ
た。
.
水色の方︱
︱
.
亜久亜に力を分け与えた
     
     、
ぷりんてぃ
んで、
.
名前は、
パリポ。

.
黄色い方︱
︱
.
茶茶に力を分け与えた
     
     
     、
ぷりんてぃ
ん。
.
名前は、
ナミクル。
.
二人とも女の子の、
ぷりんて
     
     
     
     ぃ
んだっ
た。
.
女の子らしく、
二人とも
     、
にこっ
と笑っ
ている
。
.
パリポとナミクルと出会い
     、
美也子ははじめて
     、
ぷりんてぃ
んにも
     、
男の子と女の子がいることを知
     
     
     っ
た。
.
もちろん、
トトプトは男の子
。
当たり前。
.
ちなみにナミクルはトトプトの
     
     
     ・
・
・
.
そのトトプトは・
・
・
﹁
あれ?
.
そういえば﹂
と亜久亜は立てていた
     足をす
     っ
と伸ばし、
きょ
ろきょ
ろと辺りを見回した
     。
﹁
トトプトは
?
﹂
﹁
あ、
うん、
トトプトはね
     
     
     ﹂
.
美也子は大きな三つのカ
     ッ
プを順番に、
.
一つ目は茶茶の前に、
コトン
     
     、
と、
﹁
あ、
ど︱
もですぅ
﹂
.
二つ目は亜久亜の前に
     
     、
カタン、
と、
﹁
おっ
、
サンキュ
︱
﹂
.
最後の一つを自分の席の前に
     、
コッ
トン、
と置いた
。
.
三つのカッ
プは、
ふわ
     っ
、
とした湯気をたてる
     。
ふわっ
とした甘い甘い香り
。
.
とっ
ても、
あたたかそう
     
     。
.
とっ
ても、
おいしそう
     
     
     。
.
うん・
・
・
﹁
あのね、
トトプトは・
・
・
﹂
.
美也子はお盆をテ︱
ブルの端に立てかけ
     、
はいている白いジ
     ︱
ンズのすそを軽く引
     っ
張り
     、
正座の姿勢で、
ストン
     、
と絨毯の上に座っ
た。
﹁
あのね﹂
.
首をちょ
っ
とだけ傾け
     、
﹁
あのね、
トトプトはまたパトロ
     ︱
ルに出かけてるの
﹂
﹁
へぇ
﹂
と亜久亜。
﹁
ほぇ
﹂
と茶茶。
.
美也子はにこっ
と笑い
     
     、
﹁
ま、
ね、
あの子も働き者だから
﹂
﹁
うん、
そうだよな﹂
.
亜久亜は両腕を組み、
うんうん
     、
うんうん、
とうなずいた
     
     。
﹁
トトプトはいつも偉いよな
     ぁ
、
ほんと。
だいたいさ
﹂
.
亜久亜はちらっ
とテ︱
ブルの上のパリポへと目を向けた
。
.
彼女の水色のぷりんて
     ぃ
ん、
パリポは両方のぷにぷにのお手
     々
でカ
     ッ
プをつかみ、
器用に傾け
     、
ココアをこくこく
     、
こくこく、
と飲んでいる
。
.
パリポはおしゃ
れなのか
     、
首から小さなペンダントを下げている
     
     。
.
こくこく、
こくこく・
・
・
﹁
ふにゅ
︱
﹂
.
とっ
てもおいしそう。
.
とっ
ても幸せそう。
.
にこにこ、
にこにこ、
と笑
っ
ている。
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
にこにこ、
にこにこ・
・
・
.
小さいカッ
プ、
といっ
ても、
それは人間から見てのこと
     。
ぷりんて
     ぃ
んたちから見れば、
体と同じぐらいの大き
     さはある
。
﹁
なぁ
、
パリポ﹂
と亜久亜は言
     
     っ
た。
﹁
はい?
﹂
.
なおも、
こくこく、
こくこく
     、
と飲んでいる
。
ふにゅ
︱
。
﹁
あのさ﹂
﹁
はい?
﹂
.
こくこく、
こくこく・
・
・
﹁
あのさ、
お前さ、
いつもそうや
     っ
て、
お菓子食べたり
     、
ジュ
︱
スやお茶飲んでば
     っ
かりいてさ
     、
お前もトトプトみたいに
     、
パトロ︱
ルに行かなくていいわ
     け
?
﹂
﹁
え︱
、
だっ
てぇ
﹂
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
ふにゅ
︱
、
とカッ
プから口をはなし
     、
隣のナミクルの方へと顔を
     向けた
。
.
茶茶の黄色いぷりんて
     ぃ
ん、
ナミクルも、
同じようにココアを飲
     んでいた
     
     
     。
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
こくこく、
こくこく・
・
・
﹁
ふみゅ
︱
﹂
.
幸せそう。
.
ふみゅ
みゅ
︱
、
と口をはなした
。
﹁
ね︱
、
だっ
てね︱
、
ナミクル
     
     ﹂
﹁
そうよね︱
、
パリポ﹂
.
二人は顔を見合わせ、
﹁
ね︱
﹂
と声を合わせた
     
     
     。
.
口の周りには、
茶色いココアが付いている
。
﹁
ね︱
、
だっ
てね︱
、
そういうの
     っ
て・
・
・
日本中
     、
飛び回っ
て、
心のよごれたエンジ
     ェ
ルさんを見つけてくる
     の
     っ
て・
・
・
とっ
ても大切だけど
、
.
でも、
それっ
て、
けっ
こう大変だし︱
、
まだ寒いし
     ︱
、
やっ
ぱり肉体労働だし
     ︱
、
お肌荒れるし
     ︱
、
変な筋肉ついち
     ゃ
うし︱
、
それっ
て、
やっ
ぱり・
・
・
.
う︱
ん、
やっ
ぱり、
パトロ
     ︱
ルっ
て、
男の子の仕事よね
     
     
     
     
     ︱
﹂
﹁
そうよね︱
﹂
.
亜久亜はちょ
っ
とあきれ顔
     
     。
.
ぽりぽり、
と人さし指で頬をかいた
     。
﹁
あのさ
     、
そういうもんなのか
?
﹂
.
パリポは亜久亜の方へと向き直
     
     っ
た。
.
くすっ
と笑っ
た。
﹁
はい、
そういうものなんです
﹂
﹁
でもさぁ
、
パリポ。
それにナミクル
     。
お前たちさ
ぁ
﹂
.
亜久亜は首をかしげ、
﹁
特に、
パリポ、
お前さ
     ぁ
、
俺のところにきたときさ
     ぁ
、
虚無とカオス
     ︵
混沌︶
がなんたらかんたらで
、
.
急がないと時間がないとか
     、
なんとか、
言っ
てなかっ
たかぁ
。
.
だから、
心に愛と幸せの宝石を秘めた
     、
まじかるエンジ
     ェ
ルが必要で
     、
それと、
なんたらいう長老が
・
・
・
﹂
﹁
あ、
それ﹂
.
茶茶は笑っ
た。
.
ばっ
と片方の手を上げ
     
     、
﹁
私もナミクルからステ
     ィ
ッ
クもらうときに言われましたです
ぅ
﹂
﹁
だろ?
﹂
﹁
はい、
です﹂
.
パリポはくすっ
と笑っ
た。
.
ナミクルも笑っ
た。
.
二人して、
小さな右手を
     、
ぷにぷに、
ぷにぷに
、
と左右に振っ
た。
.
ぷにぷに、
ぷにぷに・
・
・
.
ぷにぷに、
ぷにぷに・
・
・
﹁
わかっ
てませんね、
お二人とも
     
     ﹂
﹁
そうです、
わかっ
てませんね
     
     
     
     
     ﹂
﹁
うん?
﹂
﹁
はにゃ
?
﹂
.
パリポは亜久亜へと目を向け
     、
茶茶へと目を向けた
     。
ふいにまじめな顔つきになり
     
     、
﹁
いいですか、
お二人とも
﹂
.
ぷにぷに、
ぷにぷに・
・
・
.
ぷにぷに、
ぷにぷに・
・
・
.
びしっ
と右手を前へと伸ばした
。
﹁
それはそれ、
これはこれ
、
です﹂
﹁
はあっ
?
﹂
﹁
ほへっ
?
﹂
.
ナミクルも、
うなずいた
     
     。
﹁
そうそう﹂
.
二人へと順番に目を向け
     
     、
﹁
そうです、
それはそれ
     、
これはこれ、
なんです
﹂
﹁
そ、
それでいいのか、
パリポ
     
     ?
﹂
﹁
いいんです﹂
﹁
本当に?
﹂
﹁
はい﹂
﹁
そういうもんなのかぁ
?
﹂
﹁
そういうものなんです
﹂
﹁
ココアうまい?
﹂
﹁
おいしいです﹂
﹁
さぼりたいだけじゃ
ないの
     
     ?
﹂
﹁
ちがいます﹂
﹁
う︱
ん﹂
.
亜久亜は、
ぽりぽり、
と指先で頬をかいた
     。
パリポはなにやら
     、
ふに
     ゅ
︱
っ
と、
自信たっ
ぷり
。
﹁
う︱
む﹂
.
亜久亜はきゅ
っ
と引き締ま
     っ
た両腕を、
くい
っ
と組んだ。
﹁
ふ︱
む﹂
.
目を閉じ、
首を少しだけ左に傾けた
     
     
     
     
     。
.
しばらく・
・
・
.
しばらくなにかを考えているふうであ
っ
た。
.
誰もが︱
︱
美也子も、
茶茶も
     、
ごくっ
と息を飲んだ
。
.
と、
亜久亜はふいに目を開いた
     
     
     。
.
にかっ
と笑っ
た。
﹁
ま、
いっ
か﹂
.
がくっ
、
.
・
・
・
と、
美也子は思わず前のめりに倒れ
     そうにな
っ
た。
.
茶茶も、
がくっ
、
と倒れそうにな
っ
た。
.
パリポと、
ナミクルは
     
     、
くすっ
と笑っ
た。
.
くすくす、
くすくす、
と笑
っ
ている。
﹁
あのさ、
はは﹂
.
亜久亜は笑っ
た。
.
頭の後ろに手を当て、
ぽりぽり
     、
ぽりぽり、
と頭をかいた
     
     。
﹁
あのさ、
よく考えたら
     、
俺、
むずかしいこと考えるの苦手だしさ
     、
なんだか頭痛くな
     っ
てきた
﹂
﹁
はい﹂
.
パリポも笑っ
た。
﹁
むずかしいことはいいんです
     
     ﹂
.
くすっ
と笑っ
た。
.
ふたたび、
こくこく、
こくこく
     、
とココアを飲み始める
     。
﹁
時間はないけど
     、
ゆっ
くり、
のんびり
     、
一歩一歩です
     。
いまはココアの時間です
﹂
.
茶茶も笑っ
た。
.
くすくす・
・
・
.
くすくす・
・
・
﹁
ですね﹂
.
テ︱
ブルの上のカッ
プを手に取り
     、
こくこく
     、
こくこく、
とココアを飲み始める
。
.
ナミクルも笑っ
た。
﹁
そうそう、
そういうこと
     
     !
﹂
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
美也子はぐるっ
とみんなを順番に見回した
     
     
     。
.
誰もが、
.
くすくす、
.
にこにこ、
と笑いながら
     、
ココアを飲んでいる
。
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
にこにこ、
くすくす・
・
・
.
う︱
む。
美也子はどうにも
     、
いまいち、
なっ
とくがいかない。
.
ねぇ
、
ちょ
っ
と、
みんな待ちなさいよ
     。
.
美也子は思っ
た。
.
ねぇ
、
ちょ
っ
と、
本当にそれでいいの
     ?
.
ね
     ぇ
、
ちょ
っ
と、
みんな
。
.
でも、
口に出しては言わない
     
     
     。
.
と、
いうか、
言えない
。
.
みんな、
こくこく、
こくこく
     、
とココアを飲んでいる
     
     
     
     。
.
くすくす、
くすくす、
.
にこにこ、
にこにこ、
と笑
っ
ている。
.
う︱
、
もぉ
。
.
美也子はカッ
プを手に取り
     、
口をつけた。
ぶつぶつ
     、
ぶつぶつ・
・
・
.
ココアを、
こくこく、
こくこく
     
     、
と飲み、
.
もぉ
、
結局、
うちのトトプトば
     っ
かり、
がんばらせて
     ・
・
・
ぶつぶつ
、
ぶつぶつ・
・
・
.
まっ
たく、
もぉ
・
・
・
.
美也子はテ︱
ブルの上からポテトチ
     ッ
プの袋を手に取
     
     っ
た。
.
もぉ
。
.
パリン、
と両方の手で袋を開ける
。
.
まっ
たく、
もぉ
・
・
・
.
最近、
いつもそうなんだから
     
     ・
・
・
.
みんな調子いいんだから
     。
.
だいたい・
・
・
.
ぶつぶつ、
ぶつぶつ。
﹁
あ︱
、
それにですね﹂
とパリポは唐突に言
     っ
た
     
     。
﹁
それに、
できればいまはトトプトにたくさ
     ん活躍させてあげた方
     がいいんです
     。
あの子もいろいろと事情があ
     ることだし
・
・
・
﹂
﹁
えっ
?
﹂
.
美也子は思わず顔をあげた
     。
パリポへと目を向ける
。
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
パリポは再びココアを飲み始めていた
。
.
ナミクルもうなずいた
     。
﹁
そうね、
トトプトもあれでいろいろと大変
     だしね
﹂
﹁
えっ
?
﹂
.
ナミクルへと目を向ける
     
     。
.
こくこく、
こくこく・
・
・
.
こくこく、
こくこく・
・
・
﹁
そうそう﹂
﹁
そうよね︱
﹂
﹁
えっ
、
あの﹂
.
美也子は思わずパリポとナミクルを見つめ
     、
言
っ
た。
.
ポテチの袋を手に持っ
たまま、
﹁
あ、
あの、
事情っ
て・
・
・
﹂
.
パリポとナミクルを交互に見つめ
     
     
     、
﹁
あ、
あの、
パリポ、
ナミクル
     ・
・
・
ト、
トトプトが
     ・
・
・
うちのトトプトが
     ・
・
・
あの、
どうかしたの
     ?
.
あの・
・
・
事情っ
て・
・
・
﹂
﹁
あ、
それはですね﹂
.
パリポは、
ふにゅ
っ
とカ
     ッ
プから口をはなし
     、
続いて手をはなした
     。
コトン、
と音をたて
     、
カッ
プがテ︱
ブルの上にま
     っ
すぐに立っ
た
。
﹁
う、
うん、
なに?
﹂
.
パリポは、
ふ︱
、
と息をついた
     。
.
ちらっ
とナミクルを見て
     
     、
﹁
ナミクル?
﹂
﹁
あ、
別にいいよ、
言っ
ても﹂
.
ナミクルはココアを飲んだまま言
っ
た。
﹁
そぉ
?
﹂
.
パリポはちょ
っ
とだけ頭をさげ
     、
短いぷにぷにのお手
     々
で頭のリボンを
     、
ふにふにと触っ
た。
﹁
じつは、
ですね﹂
﹁
う、
うん﹂
﹁
トトプトは以前に、
まじかるランドで
     ・
・
・
﹂
﹁
うん﹂
.
・
・
・
.
・
・
・
・
・
・
.
と、
そのとき、
だっ
た
。
.
.
ぷり︱
ん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷりん、
ぷりん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
・
・
・
・
・
・
﹁
えっ
?
﹂
.
美也子ははっ
として顔をあげた
。
﹁
あれっ
?
﹂
﹁
ほえっ
?
﹂
.
亜久亜と茶茶も、
ほとんど同時に声を立て
     た
     
     
     。
.
はっ
として顔をあげる
。
.
﹃
それ﹄
は耳にではなく
     、
頭の中に直接、
響いてくる
     。
三人にとっ
ては、
この数週間のあいだに
     、
もうすっ
かりおなじみにな
     っ
たものだ
っ
た。
.
.
・
・
・
・
・
・
.
.
ぷりん、
ぷりん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷりぷり、
.
.
ぷりぷり、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷり︱
ん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
﹃
それ﹄
は、
ぷりんて
     ぃ
んたちが持つ特殊能力
。
.
物理的な現象によらず
     、
心と心をつなぐ、
ぷりんて
     ぃ
んの不思議な能力
     、
シンパシ︱
︵
共鳴能力︶
。
.
場所の制約を越えて、
距離の制約を越えて
     、
心と心を
     、
言葉と言葉を通い合わせることが
     できる
     
     
     
     。
.
特殊な通信手段。
.
スティ
ッ
クの助けを借りれば
     、
美也子たちも行うことができる
。
.
きらめきの力で。
.
ぷりんてぃ
んの力で。
.
愛の力で。
.
簡単にいえば、
一種のテレパシ
︱
。
.
.
ぷり︱
ん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷりん、
ぷりん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷりぷり、
.
.
ぷりぷり、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷり︱
ん、
.
.
ぷりんてぃ
ん﹁
トトプト!
﹂
.
三人はほとんど同時に声を上げた
     
     
     。
.
ざっ
、
ざしゅ
、
とカッ
プをテ︱
ブルの上に置き
     、
ばっ
とその場に立ち上がる
。
.
ばっ
、
ばばっ
、
と。
.
亜久亜が、
茶茶が、
.
そして、
.
美也子が・
・
・
.
ガツッ
!
﹁
あうっ
﹂
.
つぅ
ぅ
ぅ
ぅ
。
.
美也子はその場にうずくま
     っ
た。
.
立ち上がる瞬間、
右ひざがテ
     ︱
ブルのふちに
     、
ガツッ
ッ
、
とぶち当た
っ
たのだ。
﹁
あいたっ
、
つぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
﹂
﹁
あっ
、
お姉さま、
だいじ
     
     ょ
うぶですか?
﹂
.
茶茶が心配そうに振り返る
。
.
美也子は笑っ
た。
手をかざし
     、
﹁
はは、
は、
だ、
だいじ
ょ
おぶ︱
﹂
.
パリポは、
きっ
とした表情になると
     、
テ︱
ブルの上にすく
     っ
と立ち上が
     っ
た。
ふと思い出したように
     、
美也子の方を見つめ
     
     、
﹁
美也子さん、
トトプトの話はまた今度
     。
いまは
・
・
・
﹂
﹁
う、
うん﹂
.
美也子はうなずいた。
わ
     、
わかっ
てる。
た、
たしかにいまはそんな
     ことを話している場合
     ではない
。
.
状況が変わっ
た。
トトプトの事情は気にな
     るが
     、
状況が変わっ
た。
そんなことは
     、
わ、
わか
     
     っ
てる。
.
でも・
・
・
.
つぅ
ぅ
ぅ
うぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
・
・
・
.
う︱
、
なんたるドジ!
.
彼女は眉をひそめた。
痛くて涙がにじんでき
     そう
     。
.
う︱
︱
︱
。
.
う︱
︱
︱
︱
︱
︱
︱
。
.
亜久亜と茶茶はその場にすく
     っ
と立ち上がり
     、
天井の方を見上げている
。
.
う︱
︱
︱
、
.
私っ
て、
いつもこう。
う
     ︱
︱
︱
︱
︱
︱
。
.
美也子は手に持っ
たポテチの袋を
     、
右手で、
ぎ
     ゅ
っ
と握り締めた。
う
     ︱
︱
︱
︱
、
ひざを押さえ
     、
ゆっ
くりと立ち上がる
。
.
う︱
︱
︱
︱
︱
︱
︱
。
.
う︱
︱
︱
︱
︱
、
まっ
たく
、
もぉ
!
﹁
トトプト﹂
.
最初に声をあげたのは
     、
ナミクルだっ
た。
ふわ
     っ
とテ︱
ブルの上から浮かび上がり
     、
すぅ
︱
っ
と茶茶の顔のすぐ脇へと舞い上が
っ
た。
.
.
みんな大変!
.
.
聞こえる?
.
.
.
.

.
天井の方からトトプトの声が響いた
     。
正確には
     、
天井ではなく、
さらにその上
     、
遙かな天のかなたから響いて
     くる声
。
﹁
聞こえてるわよ、
トトプト
     
     ﹂
.
ナミクルが答えた。
.
.
あっ
・
・
・
.
.
あ、
お姉ちゃ
ん!
﹁
トトプト﹂
.
ナミクルはきっ
ぱりとした声で続けた
     
     
     。
﹁
こっ
ちの世界にいるときには
     、
お姉ちゃ
んっ
て呼ぶなっ
て言っ
たでし
ょ
?
﹂
.
.
あ、
うん.
少し戸惑っ
たトトプトの声
。
.
.
ご、
ごめん。
.
.
・
・
・
あっ
、
.
.
お姉・
・
・
.
.
ナミクルだけ.
.
じゃ
なくて、
.
.
全員、
.
.
そこに・
・
・
.
.
・
・
・
.
.
美也子ちゃ
んの.
.
部屋にいるの?
.
ナミクルはうなずいた
     
     。
﹁
いるわ。
私も、
パリポも
     。
エンジェ
ルズのみんなも
﹂
.
誰もが顔を見合わせてうなずいた
     
     。
.
亜久亜が、
茶茶が、
美也子が
     、
互いに顔を見合わせて
     、
うなずいた
     。
﹁
うん﹂
.
でも・
・
・
.
つぅ
ぅ
ぅ
うぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
・
・
・
.
でも、
美也子はぶつけたひざがや
     っ
ぱり、
ずきずきと痛んだまま
。
.
うぅ
︱
︱
︱
︱
︱
︱
、
.
いっ
たぁ
︱
︱
︱
︱
︱
︱
︱
。
﹁
それで?
﹂
とナミクルは言
     
     っ
た。
.
茶茶のすぐ脇で、
ふわふわ
     、
ふわふわ、
と浮かんだまま
     、
その目は
     、
きっ
と天井を見上げている
。
.
トトプトの返事はすぐに返
     
     
     っ
てきた。
.
.
あ、
あのね、
.
.
な、
.
.
なにか変なんだ﹁
変?
﹂
.
.
あのね、
.
.
大勢の子供たちが.
.
襲われているの。
.
.
でも・
・
・
.
ざわっ
、
.
・
・
・
と、
部屋の空気が変わ
     
     
     
     
     
     っ
た。
.
大勢の子供たちが・
・
・
襲われている?
.
この数週間、
彼女たちは
     、
まじかるエンジェ
ルとして、
様々
な事件を解決してきた
。
.
デパ︱
トの前で因縁をつけられていた女学
     生を救
     
     っ
たこともある、
.
刃物を持っ
た通り魔を改心させたこともあ
     る
、
.
ヤクザや、
もっ
と危ない相手と相対したこ
     ともある
、
.
その他にも、
いろいろと
     
     
     、
いろいろと・
・
・
.
いろいろと、
いろいろと
・
・
・
.
でも、
だけど、
大勢の子供たちがい
     っ
ぺんに襲われているような
     事件はこれまで一件も
     なか
っ
た。
.
一人、
二人ではない。
﹃
大勢の﹄
子供たち。
.
細かい状況は分からない
     。
.
そんなことは関係ない
     。
そんなことより、
いまは
・
・
・
﹁
トトプト!
﹂
.
亜久亜はぐっ
と両方の手を握り締め
     、
言っ
た
     。
﹁
ごちゃ
ごちゃ
細かいことはいい
     。
いますぐ
、
俺たちをそこへ﹂
﹁
そうですぅ
﹂
.
茶茶もきっ
とした表情になり
     、
言っ
た。
﹁
亜久亜お姉さまの言う通り
     。
いますぐ、
私たちをそこに
﹂
.
パリポもうなずいた。
.
ふわっ
とテ︱
ブルの上から浮き上がり
     、
亜久亜の肩に
     、
すっ
と降り立
     
     
     っ
た。
.
天井を見上げ、
﹁
トトプト、
急いで﹂
.
.
う、
うん.
ナミクルはほほ笑み、
くる
     っ
と空中で向きを変え
     、
部屋の中、
一人一人の顔をさ
     っ
と見回した
     
     
     
     
     。
﹁
みなさん、
よろしいですね
?
﹂
.
亜久亜は笑っ
た。
﹁
おぅ
﹂
.
茶茶も笑っ
た。
﹁
はいですぅ
﹂
.
美也子もうなずいた。
﹁
う、
うん﹂
.
ずきん、
と右ひざが痛んだ
     。
美也子は思わず
     、
少しだけ身をかがめた
     。
手に持っ
たポテチの袋が
     、
がさっ
と音をたてる
。
﹁
あ、
ちょ
っ
、
ちょ
っ
と
     
     ・
・
・
﹂
.
美也子は部屋の中を見回し
     
     、
言っ
た。
.
うぅ
︱
︱
︱
︱
。
.
右ひざに手をあてた。
.
パリポとナミクルは顔を見合わせ
     、
にこっ
と笑い合うと
     、
すっ
と天井を見上げた
     
     
     。
.
二人の声がきれいにそろう
     
     。
﹁
トトプト、
いいわよ﹂
.
.
う、
うん﹁
あの、
ちょ
、
ちょ
っ
と
・
・
・
﹂
.
トトプトの声は続いた
     
     
     。
.
.
強制転移準備、
.
.
五・
・
・
四・
・
・
﹁
う︱
、
ちょ
、
ちょ
っ
と
・
・
・
﹂
.
亜久亜は天井を見上げ
     、
にっ
と笑い、
﹁
いくぜ﹂
﹁
いくですぅ
﹂
.
茶茶も言葉を続ける。
.
あっ
、
と思い、
茶茶は部屋の隅に駆け寄
     っ
た
     。
壁に立てかけてあっ
たテディ
ベアのぬいぐるみを
     、
ぎゅ
っ
と抱きかかえ
     
     、
﹁
テディ
ちゃ
んも、
いっ
しょ
にいくですぅ
﹂
.
.
・
・
・
三・
・
・
.
.
二・
・
・
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
と・
・
・
﹂
.
美也子はもう泣きそうだ
     
     
     っ
た。
.
右ひざが、
ずきずきと痛む
     。
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
と・
・
・
トトプト、
ち
ょ
っ
と、
まっ
・
・
・
﹂
.
.
・
・
・
一.
.
・
・
・
ゼロ・
・
・
.
亜久亜は顔を上へと向け
     、
すっ
と目を閉じた
     
     。
.
茶茶も、
すっ
と目を閉じた
     
     。
.
パリポも、
ナミクルも
     。
.
・
・
・
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
と、
まっ
・
・
・
﹂
.
.
強制転移!
.
トトプトの声が部屋に響き渡る
     
     
     
     。
﹁
きゃ
あ﹂
﹁
よっ
しゃ
あ﹂
﹁
はいですぅ
﹂
.
その瞬間︱
︱
.
ざざっ
、
と足もとから上へと向か
     
     っ
て、
﹃
なにか﹄
が吹き上げるような感覚が三人を
     つつんだ
。
.
さぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
っ
、
と体が分解し
     、
すぅ
ぅ
ぅ
っ
︱
︱
、
と空気の中にとけ込んでいくような
     感覚
。
.
ふわっ
とした感覚。
.
自分が自分でなくなり
     、
この世界に満ちている様
     々
なきらめきと一つになるような感覚
。
.
時間にして、
数百分の一秒にも満たない時
     間
     、
カッ
とまばゆい光が辺りをつつんだ
。
.
そのまま・
・
・
.
そのまま、
三人と、
二人のぷりんて
     ぃ
んの姿はその場から
     、
すっ
と消えていた
。
.
やがて、
何ごともなか
     っ
たかのように、
部屋はもとへと戻る
。
.
後には・
・
・
.
後には、
ただ窓辺のカ
     ︱
テンだけが、
さらさら
     、
さらさら、
と揺れていた
。
.
そして、
.
・
・
・
もう一つ、
かすかに響く
     、
美也子の残存音声
。
.
.
も︱
、
ちょ
っ
とまっ
てっ
て、
.
.
言っ
たのにぃ
ぃ
ぃ
ぃ
ぃ
︱
︱
︱
︱







